診断
目次
焼けるような発熱
お腹が痛い
頭が痛い
息ができない
気も狂わんばかり
気を失って
奇妙な発疹
かくも力なく
「謎解き」通して病解明
種々の体調の異常を感じると、私たちは病院やかかりつけの医院を訪れる。診察と検査で不調の原因を明らかにし、治療法を提示してもらって回復し、もとの生活に戻ってひと安心するのだ。このプロセスは、ミステリー小説のプロットの「事件発生」「捜査や調査」「容疑者の絞り込みと取り調べ」「犯人確保と真相解明」に置き換えることができる。本書のタイトル「診断」は、「容疑者の絞り込み」に該当するだろう。慎重な、それでいて思い込みに縛られない自由な考察を必要とする勘所だ。
本書は実話による見事な「謎解き」医療ミステリー集である。優れたミステリー短編集の大半がそうであるように、構成はシンプルだ。
「どの物語も、同様の基本的な症状、つまり発熱、割れるような頭痛、吐き気の発作などで始まるが、ほぼすぐに予期しない方向に飛立ってしまう。
たとえば第二章のなかのエピソード「魚が原肉?」。患者は強烈な腹痛と下痢・嘔吐に苦しめられ、口に含んだ冷たい飲み物が熱湯のように感じられることに気づいて仰天する。この奇妙な冷熱逆転にはちゃんと原因があり、私たち読者はシガテラ中毒という知識を得て、エピソード中の不運な患者と同じくらいびっくりするのだ。第六章のなかの「脈がない」では、十代の女の子が突然暗赤色の血を吐いて意識を失う。少女は心肺蘇生を受けて命を拾うが、心臓モニターをつけて調べても、彼女の身に何が起きたのか解明できる異常所見は見つからない。少女のケアにあたっていた医師が、「分かりましたよ!」と大きな声で言うまでは。
無類に面白い本書だが、副作用がある。自分がこうした珍しい病気にかかったら、正しく診断してもらえるだろうかと取り越し苦労をしてしまうこと。
身近な人が抱えている愁訴を、本書で得た知識を使って「診断」してしまいそうになること。ご注意くださいね。
書評再録【読売新聞 2021/6】評・宮部みゆき(作家)
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